那和秀峻君の労作
昨年12月の初め、那和君から見本として一冊送られてきました。
ずっしりと重いんですね。早速めくってあちこち読んだんですが、持ってると手が疲れます。
中身もしっかり充実した記述で、その歴史的事実の重さによって、久しぶりに精神的な
重い感動があり、時として当時の自分を思い出したりしました。(笠松 亮)
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那和秀峻著
『名機を訪ねて』
日本カメラ社刊
466ページ
¥3,800+消費税 |
私(笠松)は卒業後、小さな広告プロダクションに入りました。デザイナーとして広告界でキャリアを積んでいこうと考えていました。担当したのが日本工学工業(現ニコン)のカメラや顕微鏡などの光学製品の海外向け英文広告とカタログ、使用説明書などの制作です。この会社に8年半ほどいました。同じころ、那和君は英文毎日に勤めていましたが、世の中の騒乱(安保闘争やそれにつづくベトナム反戦運動など)に直接巻き込まれるようなこともあったようです。私の方は、ニコン担当をこれ幸いと、借りてきたニコンFを持ち出して、世の中のあちこちを撮りまくっていました。仕事上カメラの構造や写真表現の成り立ちを勉強するためでもあったのですが、周りを取りまく騒然とした、熱い雰囲気にただ事でないものを感じ、持っているカメラで自分なりに記録しようしたのです。新宿には毎日のように行きました。そしてある日ついに東大に潜入し、機動隊の放水を浴びて陥落直前の安田講堂を撮影するということまでやってしまいました。下の写真がその時のいくつかです。
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さて、そのニコンFについては本書の111ページから126ページにわたって紹介されています。名実共に日本を代表するこのカメラがどのように開発され、いかにして世界中の報道カメラマンの標準装備品となるに至ったか、那和君はその過程を丁寧に紹介しています。記述された事実やエピソードは、そのほとんどは私が当時自分自身で見たり、当事者から聞いたりしたことでもあります。那和君は職業としてカメラや写真に深くかかわり、その歴史を生きてきたわけですが、同じものに同じ時、別の位置から私もかかわっていたことに、特別な感慨を覚えます。
私がしばらく立ち止まったページがあります。下のページの右にあるのが当時私が常に持ち歩いていたニコンFフォトミックで、この露出計のおかげで、暗い東大キャンパスで安田講堂をフィルムに収めることができたのです。
左のニコンは、NASAの特別仕様モデルで、アポロ15号に搭載されて月面撮影に使われたもの。この現物を私は当時大井にあった工場の一室で密かに見たのです。もちろん部外秘の機密事項なのですが、NASAへの納品直前に、後でプレスリリースを作成するためということで、例外的に撮影と取材を許されたのです。一瞬その異様な形と色、質感にギョッとしたことを今でも鮮明に思い出します。宇宙へ行くための道具として、カメラはこうならなければならないのか、と納得したのはずいぶん後になってからです。那和君は特殊なデザインのポイントを外すことなくきちんと押さえて紹介していますが、例えばこのNASA仕様モデルの巻上げレバーの形状は、まもなく後継機のニコンF2に採用されるようになりました。その方が確かに使いやすいのです。シャッターリリースボタンは、宇宙飛行士は厚い手袋をはめて操作するので、かなり高くなっていましたが、これは一般には必要ないことなので、これきりでした。そのとき印象深かったこんな細かいことまで、読みながら思い出してしまうのです。
那和君はこの本よって27機のカメラをとりあげています。こうして歴史の一分野をきちんと定着させたのだと思います。最近はデジカメのテストレポートや表現としての写真そのものの分野にも活躍の場を広げているようです。社会的に意義のある仕事をする同級生がいることは、なんとなくうれしいことですね。これまでの何人かとともに、那和君をこのホームページで紹介できて、新年早々幸先のいいスタートです。
■那和君のホームページはこちら。訪ねてみてください。